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【後編】50年後に「須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」を終了することを目指して

【後編】50年後に「須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」を終了することを目指して

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【前編】4,500人が参加!「海の楽しみ」を届けるユニバーサルビーチの取り組み

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「シュンスケ、バリアなんて自分で超えるものだろう!」

プロジェクトをけん引する木戸さんご自身は、何がきっかけで車いすを利用することになったのでしょうか。

僕は子どもの頃からサッカー一筋で、大学時代はチームの副キャプテンも務めていました。大学卒業後は、東京の広告代理店に入社して営業を経験してからスポーツイベントに関わる部署でバリバリと仕事をする日々。地元の須磨海水浴場で出会った妻と結婚して幸せな日常を送っていました。しかしある日、会社からの帰宅途中で交通事故に遭ったのです。肋骨、肩甲骨、顔面の骨が折れるほどの大事故。命はとりとめたものの、胸椎損傷から下半身が完全麻痺してしまい、医師からは「もう歩くことはできない」と告げられました。

将来の事を考えると不安で激しく落ち込むこともありましたが、よく考えると「営業時代の方がきつかったよな……」と思えたりもして(笑)。「もう一度歩けるようになるぞ」と希望を持ち直して訪れたのは、オーストラリアのリハビリ施設でした。その施設を選んだ理由は、車いす生活を前提としたリハビリではなく、 “歩くためのリハビリをサポートする”という方針があったからです。

リハビリに励む人たちの気持ちが明るく前向きということも、オーストラリアの施設を選んだ理由の一つ。施設見学に行った際、僕と同じように車いすを利用している人が、「昨日インドから帰ってきたんだ。いい旅だったよ」なんて当たり前のように話してくれて。驚いて、「インドってバリアフリーは整備されているの? 大丈夫だった?」と聞くと、「いやいや、シュンスケ、バリアなんて自分で超えるものだろう!」って、これもまた当たり前のように返してくる。「道がなかったら自分で道を作るんだよ!」という彼らのポジティブな思考に触れた時、僕も何かに挑戦しようという気持ちが湧き上がってきたのです。

木戸さんは、明るく前向きな仲間たちの影響を受けて夢の実現に向けて大きく動き出した。

誰もが地元の海を楽しめるように

ユニバーサルビーチを日本に導入しようと思ったきっかけを教えてください。

オーストラリアでリハビリに励んでいたある日、気分転換に近くの海岸へ行きました。海水浴客が思い思いの時間を過ごしているのを横目に見ながら遊歩道を進むと、白い砂浜のど真ん中に、海まで真っすぐに延びる一本のビーチマットが目に飛び込んできたのです。マットの近くには車いすマークと共に「Beach access mat」と書かれた立て看板。僕はマットを通り夢中になって海に向かいました。波打ち際に着いた時、「また海水浴ができるんだ!」と、胸がいっぱいになったのをよく覚えています。

ゴールドコーストで見た「海まで真っすぐに延びるビーチマット」を須磨海水浴場でも実現した。健常者にとっても海へのアクセスが良く、ベビーカーや、サンダルを履いていない人などにも好評。

こんなにも海に入れることに喜びを感じたのは、その数カ月前に家族旅行で行った海での出来事があったからです。冬だったので海には入ることはできないものの、「せっかくだから海の水に触れよう!」という話になり、僕は家族におんぶしてもらって波打ち際まで行ったのです。素敵な思い出ではありますが、嬉しい気持ちと同じくらい罪悪感にさいなまれてしまった。「こんなふうに負担をかけてまで海に行くのはもういいや…」。この罪悪感は障がいのある人が抱きがちな感情ではないでしょうか。それ以降、僕は海をとても遠くに感じていたので、自力で波打ち際まで行けた時の喜びはひとしおだったのです――。

ビーチマットでたどり着いたオーストラリアの海は、健常者の海水浴客も横で普通に遊んでいます。周囲の人が車いすに乗った僕のことを特段気にしている様子もありません。何の気負いもなく海の水に触れた時、「ああ、この感覚、すごく気持ちいいなあ!」と僕の中の生の感情が爆発しました。障がいのある人が、当たり前に海に行って当たり前に遊ぶ。「こんな環境を日本にも作りたい」という夢が生まれた瞬間でした。

固定観念を覆してくれるリハビリ仲間に出会い、諦めていた海水浴が実現し、心のエネルギーは満タンです。僕は、オーストラリアから須磨海水浴場で海の家を運営するオーナーに連絡してビーチマット設置の相談をし、さらに、一緒に活動してくれる仲間を12人集めました。その後、帰国した2016年に任意団体を作りユニバーサルビーチの活動を開始したのです。

難しいこと「だからこそ」乗り越える面白さを味わえる

ユニバーサルビーチの活動をするうえで難しいと感じたことはありましたか?

活動開始当初は僕たちの挑戦を不安視する声もありました。協力者不足、資金不足、認知度不足など課題は山積みでしたが、難しいと思っていたことをひっくり返すのが醍醐味です(笑)。ビーチマットは一人で持ち運べる重さではなく、設置にも撤去にも人手が必要。一見、プロジェクトを進めるにあたってのマイナス要素に見えるかもしれませんが、だからこそ、年間延べ何千人ものボランティアが集まってくれるようになりました。安全面への配慮が必要な取り組みだからこそ、ライフセービングクラブや医療従事者、市の職員も仲間入りしてくれたのです。

資金だって潤沢ではありませんでした。でも、だからこそ一生懸命に協賛企業を集め、それぞれの企業にフィットした支援方法を一緒に検討していった結果、海に限らず山やオンライン上でのイベントが生まれるようになった。また、須磨ユニバーサルビーチプロジェクト(SUBP)が広く知られていないこともあり、全国に向けた情報発信には苦戦していました。でも、だからこそ、地域に向き合い須磨での活動を愚直に続けていたら、メディアに取り上げられて注目を集めるようにもなった。今年(2023年)は「ブルーフラッグ認証(※)」のベストプラクティス賞で世界2位を獲得して、とうとう世界での認知度を上げることができました。日々、課題に向き合い挑戦を繰り返しているうちに、できることがどんどん増えていると実感しています。

ブルーフラッグ認証……国際NGO FEE(国際環境教育基金)が実施するビーチ・マリーナ・観光用ボートを対象とした世界で最も歴史ある国際認証制度。水質、環境教育と情報、環境マネジメント、安全性・サービスの4分野、30数項目の認証基準を達成することで取得できる。

現在は、さまざまな企業がSUBPの活動に賛同し協賛している。

「できない」が「できた!」に変わる感動を日本全国に

NPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクトの今後の展望を教えてください。

ヨットハーバーと連携してヨットで航海するのもいいですね。「あれ? みんなまだ須磨の海で遊んでるの? これからはヨットで船旅でしょ!」なんて言いながら(笑)。でも本当は、オーストラリアのように、いつでも誰でもふらっと海に遊びに行けてふらっと帰ってこられる環境が理想。現在は、僕たちの活動に共感した人たちの手によってイベントが各地で実施されつつありますが、ユニバーサルビーチを新たな文化として根付かせるためには時間も必要です。20年後に全国でユニバーサルビーチが導入され、50年後にはユニバーサルビーチが標準化されて、このプロジェクトが終了することを最終目標にしています。

「いろいろな立場の人が少しずつ持てる力を出し合い、無理なく助け合うからこそ、ユニバーサルビーチは持続可能になっているのです」と話す木戸さん。

目標を達成するためには、「ユニバーサル」に対する考え方やアプローチの方法を変える必要があると思っています。たとえば、利便性を優先して障がい者と健常者のエリアを分け過ぎてしまうと、互いを理解し合う機会の損失につながってしまう可能性があるのではないでしょうか。障がい者と健常者の垣根をなくしてごちゃ混ぜにすることで、互いの理解が深まり、誰にとっても暮らしやすい環境ができ上っていくのではないかと考えるのです。まさにダイバーシティ&インクルージョン。みんなで、過ごしやすい世の中を作り上げていけるといいですね。

イベントが終わる頃には、参加者もスタッフもすっかりリラックスした表情に。2023年夏は約30回のイベントが開催され、須磨海水浴場にはたくさんの笑顔と歓声であふれ返りました。

大和ハウスグループが考える
「地域」のユニバーサルデザイン

地域に溶け込む憩いの拠点
ミニ胡蝶蘭「COCOLAN」の栽培施設「ココランハウス三木」

大和ハウス工業は、地域に暮らす多様な人の働く場、交流する場として、2019年、兵庫県三木市にミニ胡蝶蘭の栽培施設「ココランハウス三木」を創設しました。

独自に研究開発した技術で栽培しているミニ胡蝶蘭「COCOLAN」を育てるのは、特例子会社である大和ハウスブルームの社員と地域に住む栽培パートナーたち。栽培技術を平準化することで、障がいのある人や高齢者などが主役となって、一株一株丁寧に花を育てています。

敷地内に併設された緑豊かなガーデンは誰もが集えるよう開放されており、毎月開催される「らんらんマルシェ」の日は地域の人で賑わいます。栽培されたミニ胡蝶蘭が販売されたり、多肉植物の寄せ植えやテラリウム作りのワークショップが開催されたりと、すっかり地域の人の憩いの場となりました。今では、多様な人が集い交流するユニバーサルなコミュニティ施設として認知されています。

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