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4,500人が参加!「海の楽しみ」を届けるユニバーサルビーチの取り組み ~NPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクト 代表理事 木戸俊介さん~

【前編】4,500人が参加!「海の楽しみ」を届けるユニバーサルビーチの取り組み

障がいのある人や高齢の人など、車いすを利用する人の海水浴をサポートをするNPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクト。兵庫県神戸市から始まった「ユニバーサルビーチ」の取り組みは今、全国に広がりつつあります。ユニバーサルビーチイベントの開催と普及活動に取り組む同団体代表理事の木戸俊介さんに話を伺いました。

木戸俊介 さん

お話を伺った方

木戸俊介 さん

1986年、兵庫県神戸市生まれ。筑波大学を卒業後、広告代理店で8年間勤務。2015年、交通事故による胸椎損傷から下半身が完全麻痺。アメリカ、オーストラリアでのリハビリ留学後、イベントプロデュースや企業のマーケティング活動を支援するコンテンツプロデューサーとして独立。2017年にNPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクトを設立した。キッチンカー事業「キッチンHERO(ヒロ)」、スポーツ×教育事業「HUMAN DEVELOPMENT ACADEMY」など活動は多岐にわたる。

海岸をバリアフリー化する「ユニバーサルビーチ」

木戸さん率いるNPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクトが取り組む「ユニバーサルビーチ」とは何ですか?

ユニバーサルビーチとは、健常者だけではなく、障がいのある人や高齢の人など車いすを利用する人も海水浴が楽しめる海岸のことをいいます。これまで車いすの利用者は、「砂浜にタイヤが埋まって海岸を移動できない」「介助の手が足りず海の中に入れない」など、海水浴を阻むさまざまな壁にぶつかっていました。その壁を取り払い、「海で遊ぶことができない」を「できた!」に変えるのが、僕たちNPO法人 須磨ユニバーサルビーチプロジェクト(以下、SUBP)の役目です。

ユニバーサルビーチのイベントを開催する日は、誰もが波打ち際まで行けるよう砂浜にビーチマットを敷いてバリアフリー化します。水陸両用アウトドア車いすに乗り換えれば、SUBPスタッフや家族とともに海の中に入ることが可能。海中で車いすから降りて海に身を預ければ、真夏の青い空を仰ぎながら海水浴を楽しむことができるのです。

海水浴の際は、参加者それぞれの体力やその時の気持ちが優先される。

海水浴は健常者の人にとって容易なものだと思いますが、車いすの利用者にとってはハードルが高いもの。障がいのある人や高齢の人は、何かにチャレンジしようとしても「危ないからやめましょう」と、アクティブな行動を制限されがちです。車いすで出入りできる場所も増えてはきているものの、入場が限られているエリアもまだあります。そのため、初めてイベントに参加する人は、海水浴への期待と共に、「本当に自分が海で遊べるのかな…」という不安を抱いています。我々スタッフの様子をうかがいながら、緊張気味の面持ちでいらっしゃる方は少なくありません。

しかし、いざ海に入ると表情は一変。肌に触れる水の温度、波の音、水中で感じる浮遊感などで五感が刺激され、もともと持っていた“生の感情”が爆発します。「気持ちいい!」と顔をほころばせたり、声に張りが出てきたりと、普段はないリアクションが見られるのです。付き添うスタッフは「海に入るのは何年ぶり?」「魚がいるよ!」と絶えず参加者に話しかけて海は大賑わい。会話から生まれた笑い声が海岸まで聞こえてくるほどです。

以前、障がいのあるお子さんが参加された際に、「この子は話さないし、表情や身体の動きもほとんどありません」とご家族から言われたことがありました。ところが、水に触れた瞬間身体がピクッと動いたり、表情に変化が出たりして、ご家族も僕たちも驚きました。海水浴を終えてすやすやと眠りについたその子の寝顔を見た時、自然に触れることは喜怒哀楽を目覚めさせる心へのアプローチになるのだと確信したできごとでした。

全国31都道府県・56カ所でプロジェクト拡大中

「ユニバーサルビーチ」の反響はどのくらいありますか?

SUBPが主催するユニバーサルビーチのイベントは、海水浴シーズンの7、8月を中心に須磨海水浴場で開催しています。ホームページやSNSで参加者を募ったり、障がい者施設や高齢者施設の申し込みを受け付けたりしながら、2017年以降200回近くのイベントを開催してきました。参加者は延べ約4,500人。コロナ禍を越えた今年の夏は参加希望者も多く、申し込み開始早々に参加枠が埋まりました。初めての方もいらっしゃいますが、「また海で遊びたい!」とリピートしてくれる人が多くいることに、確かな手応えを感じています。

イベントを安全に運営するためには、ノウハウの共有が重要です。SUBPでは全国の自治体や団体の要請を受けて、イベントをサポートする「出張ユニバーサルビーチ」も実施。我々スタッフが各地域に出向き、道具の使用方法や、参加者とのコミュニケーションの取り方などをレクチャーします。この取り組みを通して、全国31都道府県、56カ所でイベントの開催に携わってきました。

SUBPでは、サポートメンバーに向けて安全管理を目的にした講習会(座学と実技指導)を実施。受講の有無とサポート実績に応じて、現場での役割の範囲が異なってくる。

さらにSUBPは、夏の海水浴だけではなく、年間を通してさまざまな企画を開催しています。春は田植え、地引網、秋にはキャンプ、冬は雪遊びもするんです。これらは、イベント参加者のアイデアから生まれた企画。「実はずっとやってみたかった……」という声を拾い上げてどんどん実現させているのです。

活動に関わる人たちの人生も豊かになるように

イベント運営の協力者はどのように集めているのですか?

ユニバーサルビーチイベントの開催に欠かすことができないのは、志を同じくして「共に活動する仲間」の存在です。道具を揃えても、協力者がいないことにはイベントが開催できません。ありがたいことに、今、SUBP が管理するSNSのグループの登録者は約230人。イベントを開催する際は彼らに協力を仰いでいます。「ユニバーサルビーチの導入を検討しているものの、イベント運営の協力者を集めることに苦戦している」という話は少なくありません。僕たちも、最初からたくさんの協力者がいたわけではありませんでした。

SUBPがイベント開催に向けて準備をしていた2017年、ビーチマットを入手するための手段として選んだのはクラウドファンディングです。ビーチマットはポリエステル製で、砂に沈まないよう金属の棒がマット内に何十本も仕込まれた作り。日本では製造されていないため、必要な長さのマットをアメリカから輸入するとなると100万円以上かかります。そこで、クラウドファンディングを活用して資金調達をすることに。僕たちの須磨での挑戦を全国の人に発信して、応援してもらおうと考えたのです。しかし、そんな熱い気持ちとは裏腹にお金はぜんぜん集まらない(笑)。結局、地元の須磨で対面の説明会を開き、直接活動について話したところから少しずつ応援してくれる人が増え、目標金額を達成することができました。そこから、話を聞いて僕の想いに共感してくれた人が知り合いを紹介してくれたりしながら、協力者が徐々に増えていったのです。

ビーチマットを入手した後は、海の中でも遊べるようにと寄付金を募って水陸両用アウトドア車いすを購入したという。

なかには4年以上ボランティアを続けてくれている人もいます。多くの人が長くSUBPにかかわってくれるように僕が意識しているのは、イベント参加者だけではなく、活動を手伝ってくれる人もプロジェクトのターゲットとすること。僕はいつも協力者の皆さんに、「ここでは何か持っているものを置いていってください。その代わり、何かを持って帰ってください」と話しています。イベントを通して充実感を得たり、視野を広げたり、仲間と出会ったりしてほしいと考えているのです。

ユニバーサルビーチイベントの参加者は、少なからず海に入ることを“チャレンジ”だと思いながら来てくれているはず。そんな彼らに負けず、僕たちもどんどん新しい事にチャレンジして、お互いの人生を豊かにしていければいいなと思っています。

イベントの運営作業はほぼ1日がかりとなるが、どのスタッフの表情も清々しい。SUBPで初めて知り合った人同士が意気投合して、こども食堂や古民家カフェを始めたというケースも出てきているという。

大和ハウスグループが手掛ける
「まち」のユニバーサルデザイン

「利用しづらい」という公共トイレのイメージを払拭し
誰もが快適に使用できるよう生まれ変わらせる

2020年に日本財団が主導して始まった「THE TOKYO TOILET(ザ・トウキョウ・トイレット)」は、渋谷区内17カ所のトイレを、障がいの有無や年齢、性別を問わず誰もが快適に利用できる仕様に改修するというプロジェクト。安藤忠雄氏、NIGO®氏など世界で活躍する著名なクリエイターがトイレのデザインに参画し、国内外で話題を呼びました。

大和ハウス工業が担ったのは、各クリエイターのデザインプランを元にした設計施工。個性的なデザインの具現化、狭小地での施工、予算などのさまざまな課題をクリアしながら、2023年にすべてのトイレを完成させました。特徴的なのは外観だけではありません。多くの室内に、ユニバーサルデザインの視点で、ベビーシートやフィッティングボード、オストメイト対応設備などが備えられました。

利用しにくかったトイレは、“誰もが入れる”、“誰もが使える”トイレへと変わり、子ども連れの家族や女性の利用が増えています。

恵比寿東公園には、建築家の槇文彦氏がデザインしたトイレが誕生。公園に設置されているタコの形をしたすべり台が地域の子どもたちに親しまれていることから、トイレは「イカ」をモチーフにしたという。
写真:株式会社エスエス

Spirit of Hearts「世界で活躍する16人のクリエイターと共に」

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【後編】50年後に「須磨ユニバーサルビーチプロジェクト」を終了することを目指して

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