大和ハウス工業株式会社

DaiwaHouse

Special Interview スペシャルインタビュー サステナブルな人 グローブ・トロッター アジアパシフィック代表 田窪 寿保さん

人

サステナブルな人 スペシャルインタビュー

グローブ・トロッター アジアパシフィック代表・田窪寿保さんが語る イギリス流の幸せな暮らし方
~イギリス文化を通して見える本物の価値~

2017.01.26

持続可能な社会の形成と経済の活性化をいかに両立するか。この世界共通の課題に対し、イギリスは近代産業の先進地でありながら、現在では自然回帰運動でも世界の先端を走っている。では、自分らしい暮らしに重点を置き、自然やモノを大切にするイギリス人の感性はどこから生まれたのだろうか。

イギリスを拠点にビジネスを展開し、この国の文化に精通している田窪寿保さんは、こう力説する。「私たち日本人がイギリス流のサステナブルな暮らしを学ぼうとするなら、まずは、"老い"への向き合い方から変えるべきでしょう」。その言葉の意味することとはーー。

※ 文中の価格、店舗情報は全て本記事掲載時点のものです。

田窪 寿保 さん

BLBG(ブリティッシュ・ラグジュアリーブランド・グループ)株式会社 代表取締役 グローブ・トロッター アジアパシフィック代表を兼任。
日本初の路面旗艦店となる「GLOBE-TROTTER GINZA」を2016年3月、銀座にオープン。

グローブ・トロッターとは

1897年に、イギリス人のデイビッド・ネルケンが創業。自社工場でハンドメイドされる英国流ラグジュアリーを追求したトラベルケースとして、瞬く間に世界中に名を馳せるようになり、今日では、その伝統的なクラフトマンシップへの称賛とともに、時代を超えても変わらずに愛されるスタイルアイコンとなっている。

イギリス人と日本人の生き方について、もっとも大きな違いについて尋ねると、

「まず、日本のような美魔女はイギリスにはあまりいないですね」

と、田窪さんは答えた。これは、いつまでも若々しくありたいと願う日本の女性を揶揄した意地悪なジョークに聞こえるが、実はそうではない。

田窪さんは、モノを長く大切に使うサステナブル先進国のイギリスと、それを目指す日本では、"老い"への捉え方からしてそもそも違うと言いたいのだ。では、老いとサステナブルがどこでどう結びつくのか。田窪さんが今度は真面目に述べる。

イギリスのサステナブルな暮らしとアンティーク

「イギリスにはアンティークを大切にする文化があり、自然を愛し、好きなものを使い続ける慣習がある、だからサステナブルな暮らしができるんだ、と言ってもピンときませんよね。なぜなら、多くのイギリス人は何か崇高な使命感をもってそういう生活をしているわけではないからです。

最初に美魔女はいないといったのは、そもそも一般的なイギリス人は、歳を取ることも、老いることも悲しい現実だとはまったく思っていないんです。女性に限らず男性だって、誰でも歳を取ればシワは増えるし、身体にガタもきます。そのシワや身体の故障を嘆くのではなく、むしろ、勲章が一つ増えたと表現します。

年齢を重ねたからこそ、味わえる世界ってたくさんありますよね。シワが増え、腰痛に悩まされる歳になったからこそ、ファッションにしろ、趣味にしろ、健康にしろ、知りえることがたくさんある。こうした考え方が自然やモノとの付き合い方にも表われているんです。

例えば僕の会社で扱っているグローブ・トロッターのトラベルケースは、ピカピカな新品よりも、何年も使って古くなったほうが味も出ます。傷がついたってどうってことありません。むしろ、この傷はハネムーンのときにつけたものだったな、このボロボロのステッカーははじめてこのカバンを持って旅したときのものだったなといった感じで、年齢を重ねた自分の横に、長く付き添ったカバンがあることが嬉しいわけです」

グローブ・トロッター

田窪さんがはじめて購入したグローブ・トロッター(写真中央)。26年使用し、最近はショップに展示している。ヴァルカン・ファイバーという特殊素材であしらい、クラフトマンシップが詰まった英国を代表するトラベルケース。旅とともにボディの風合いに変化が出るが、そうした経年変化が美しく見えるように作られており、使い込むことで楽しみがますのも魅力。

オリジナルコレクション
写真右:30インチスーツケース
写真左:21インチトロリーケース
ともにヴァルカナイズ・ロンドン 青山

何年たっても色褪せない、 一生モノの本物

ターンブル&アッサー

映画「007 カジノロワイヤル」でダニエル・クレイグも着ていた限定モデルのフォーマルシャツ。友人でもあるクレイグから贈られたプレゼント。田窪さんは自他ともに認める007好き。ダンディーな男との思い出は決して色褪せることはないものだ。(非売品)

時間の経過もデザインするイギリスのモノづくり

なるほど、モノへの愛着が文化として根付く理由もわかる気がする。ただ、田窪さんもこうしたイギリス人気質を理解するには、だいぶ時間が掛かったという。

「僕らの世代というのは、ほぼ完璧にアメリカのカルチャーの影響を受けています。ビジネスでいえば、アメリカンドリームを実現して、ばかでかいビルの最上階で優雅な生活を誇らしげに送る人が成功者像だと思っていました。でも、本物の富裕層がこんなことをやると、イギリスでは間違いなく失笑の的になります。日本は戦後、アメリカ的なスクラップ&ビルドで成長してきたので、豊かさ=贅沢さだと思い込んできたのかもしれません。

僕はたまたまイギリスの少し変わった航空会社、ヴァージン・アトランティックに就職し、それこそ20世紀でもっとも有名な経営者の一人で、ヴァージングループの創始者リチャード・ブランソンさんから薫陶を受けてきました。

長くイギリスを生活の軸にして働いていると、当然ですが、世の中にはアメリカとはまったくかけ離れた価値観を持つ人たちがたくさんいるということにも気づきます。世界の文化に詳しいわけではありませんが、少なくともイギリス社会と接するたびにいままでの価値観が崩れていくようでした」

イギリスはそもそもモノづくりの発想からして、他の国とは違う。田窪さんはイギリスというフィルターを通して、本物の価値とは何かを理解したという。

「僕が勝手に名づけているだけなんですけど、モノには"満足曲線"があると思うんです。例えば、イタリア製品やフランス製品って購入したときがもっとも満足度が高いんです。凄くおしゃれだし、デザインも秀逸ですよね。でも新品の完成度があまりにも高いので、時間とともに汚れたりして満足曲線は下がっていきます。

その点、イギリス製品の新品は、満足曲線のスタート位置が決して高いとは言えません。わかりやすい例を出すと、紳士靴なんて買ったばかりのときに履くと、足のあちこちが痛くなって歩くのもつらいだけ。

それが履いていくうちに、不思議と自分の足の形に馴染んでいく。メンテナンスをしっかりすれば、何年でも愛用できます。時間が経ち、使い込むほど満足曲線も高くなります。これは職人たちに100年、200年使えるモノを作ろうという意識が根付いているからなんです」

British products British products

田窪さんオススメ! 長く付き合いたいイギリスのプロダクツ

フォックス・アンブレラの傘

イギリスの職人が手で曲げて縛って型をつくるマラッカと呼ばれる最高級のハンドルが特徴的。他にも、エイジングの味わいが魅力的なナチュラルウッドやレザーなどのバリエーションがある。キリリと細く巻かれている状態でも美しく、開いた状態では雨の音が心地よく響く。

左からマラッカ(メンズ) 、チェスナット 、アニマルヘッド グレイハウンド(メンズ)

スマイソンのノート

表題に数十種類ものさまざまなテーマが掲げられている定番のパナマノート。表紙は手触りがよく、柔軟で型崩れしにくいラム革。中味は元々ポンド紙幣に使用されていた紙なのでインクがにじまず書き心地が秀逸。イギリスでは万年筆を使用し、書いたら消さないのが"粋"使い方。

パナマノート

ヴァルカナイズ・ロンドン 青山(VULCANIZE LONDON AOYAMA)

所在地:〒107-0062 東京都港区南青山5-8-5

TEL:03-5464-5255

実は日本の価値観は限りなくイギリス的だった

イギリス文化に魅了される一方で、田窪さんは自分が育った日本の文化への興味を募らせたという。昔の日本には、イギリスとの共通点がたくさんあったことにも気づかされた。

「英語にステルス・ウェルス(※)という言葉があるんですが、イギリスのエグゼクティブは人から見て金額がわかるようなものは身につけません。モノの価値を決めるのはあくまで自分であって他人ではないからです。隠れたところに気を遣ったり、どこにも売っていないようなモノを身につけたりはしますが、高級品を身につけることがラグジュアリーだとはまったく思っていないんです。

この感性って、昔の日本にもありましたよね。おじいちゃんが使っていた逸品を息子が受け取り、さらに孫へ引き継いでいく慣習。あるいは、風が吹かなければ他人には決して見えない着物の裏地にお洒落な刺繍を施す文化。かつて日本人の多くは、融通無碍を装いながらも、誰も持っていない古いモノを大切にし、なおかつ品性が備わっている人を、"粋"だとか、"伊達"だと形容していました。

これってもの凄くイギリス文化に近いんです。これらの言葉は歳を重ねた人にしか当てはまりません。人もモノも長い歳月を経て、やっと"本物"になる。僕はこうした発想が、サステナブルな暮らしにつながっていくのだと思います。過去へのリスペクトの気持ちが育てば、未来への責任も生まれます。イギリス文化だけでなく、昔の日本からもサステナビリティは学べるんですよ」

イギリス人は、人生を"本物"になるための旅と捉えているのかもしれない。"本物"にふさわしい生き方を切望すれば、"本物"とめぐり合い、"本物"に囲まれた暮らし方、つまりモノを長く大切に使うサステナブルな生活にたどり着くと、田窪さんは言う。歳を重ねて"本物"になったとき、人は真の幸福をかみ締めることができるのだと多くのイギリス人は知っているのだろう。

※ 裕福であることを誇示しない姿勢を美徳とすること。

RECOMMEND おすすめコンテンツRECOMMEND おすすめコンテンツ

Menu

サステナビリティ(サイトマップ)