Vol.8 床暖房と板の間のある家(韓国・ソウル)

Vol.8 床暖房と板の間のある家(韓国・ソウル)

ソウルの気候・特徴

北半球の中緯度に位置するソウルは、亜寒帯冬季少雨気候です。冬は大陸性高気圧におおわれ、雨が少なく、寒くて乾燥した日が続きます。このような気候では、昼間は太陽の力で温まった地面から、夜になると大気中に熱が放出され、地表近くの温度が下がる(冷える)「放射冷却」という気候現象が起こります。ソウルは、北・南・東の三方向を山で囲まれた盆地のような地形のため、冷えた空気が他へ移動せず溜まることによって冷え込みが強くなり、最高気温が氷点下を下回る真冬日になることも少なくありません。一方、夏は気温が高く、雨も集中的に降ります。また日本と同じように、春夏秋冬の四季がはっきりしています。

現在のソウルの中心部は、かつて「漢城(ハンソン)」と呼ばれていました。漢城は、14世紀末(1392年)に李氏朝鮮※の首都となり、約500年の間、景福宮(キョンボックン)と昌徳宮(チャンドックン)という2つの王宮を中心とする行政・軍事・経済の中心でした。

漢城で王族や貴族などが住んでいた地区が「北村(ブクチョン)」です。漢城の中心を西から東へ流れる清渓川(チョンゲチョン)と景福宮と昌徳宮を結ぶ鍾路(チョンノ)の北側に位置していることから、「北村」と名づけられました。「北村」は韓国の伝統的な住居である都市型の「韓屋(ハノク)」が数多く残る地区として、600年の歴史都市の風景を今日に伝えています。

※李氏朝鮮:朝鮮半島最後の王朝(1392年~1910年)

陽ざしを取り入れ心地よく暮らす韓屋(ハノク)

韓屋は木造で、屋根には瓦が使われています。入口を入ると、マダン(中庭)があり、このマダンはそれぞれの部屋に通じています。家を訪れる人は、かならずこのマダンを通ることになります。中庭に面して、抹楼(マル)と呼ばれる高床の板の間が設けられています。抹楼は日本家屋に見られる縁側のような開放的な半屋外空間で、両側の部屋をつなぐ役割も果たしています。夏には、マダンと抹楼には日中、暖かな陽ざしがふり注ぎ、心地よい風が通り抜けることから、家の中でとても快適な場所になっています。かつては開け放たれた空間であった抹楼ですが、現在はガラス戸をつけて使用されていることが多いようです。

抹楼(マル)
写真提供:韓国観光公社

抹楼(マル)は家事を行う場所にもなる(衣類を叩いてアイロンをかける様子)
写真提供:韓国観光公社

都市型韓屋が多く残る「北村」の地形は、北が高く南は低くなっています。そのため冬も暖かく、排水にもすぐれています。また南側に開けていることから見晴らしが良く、韓屋の主な部屋にはつねに陽が当たり、居住に適した土地として知られています。

現在残っている韓屋は約860棟。1930年代に改築されたものが多く、それ以前に建てられていた大型韓屋にくらべると、マダンは小さくなっています。韓屋の建ち並ぶ様子は路地のかたちによって異なり、迷路のような路地の区画は「枝型街区(えだがたがいく)」、格子状の路地の区画は「格子型街区(こうしがたがいく)」と、二つの種類に分けられています。

韓屋が並ぶ街並み
写真提供:韓国観光公社

床から部屋を暖める温突(オンドル)

温突(オンドル)のある韓屋を使った宿泊施設での様子
写真提供:韓国観光公社

朝鮮半島の住居には、古くから温突(オンドル)と呼ばれる独特の床暖房システムが用いられてきました。温突はカマドなどのたき口で火をたき、それによって暖められた空気を、床下につくられた煙道(ヨンド)に送って床を暖める仕組みです。温突の暖かい空気が逃げないように、すき間なくつくられた部屋が、温突房(オンドルバン)です。いくつもの温突房が集まって、韓屋を構成しています。
このような床暖房システムは、中国の「炕(カン)」など東北アジア一帯に見られます。ただし「炕」は床全体ではなく、ベッドなど床の一部だけを暖房する仕組みを言います。温突の起源は、かつて中国東北部の南から朝鮮半島の北中部を支配した高句麗だという説が有力で、「旧唐書」などの古い文献には、高句麗の人びとが温突を使っていた記録が残っています。

夏向きの抹楼(マル)と冬向きの温突房(オンドルバン)

温突が朝鮮半島全域で用いられてきた一方、抹楼の起源はその開放性から考えて南方だとされています。朝鮮半島の家の間取りは、冬向きの部屋である温突房と、夏向きの部屋である抹楼の組み合わせからできています。その組み合わせは地域によって違いますが、「北村」に残っている都市型の韓屋は、抹楼と温突房の組み合わせの基本となる住居形式になっています。

POINT

  • 床暖房は最近の家にしかない特別なものかと思っていたけど、韓屋では昔からずっと使われている、珍しくない設備なんだね
  • 暑い夏を快適に過ごす工夫として、韓国にも日本の縁側のような場所があるんだね。
  • 広い中庭を通っていろいろな部屋に行けるのは、楽しそうだな。

参考文献:布野修司・朴重信(共同執筆)「旧漢城・北村の韓屋―ソウル,韓国」布野修司編『世界住居誌』昭和堂、2005年、40-41頁


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